■コラム|レトロ建築の価値とはなにか それはいまそこに存在するからだ

コラム
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懐かしい古い写真とレトロ建築の違い

記憶を刻む建物を未来に繋ぐ

 最近、縁あってある方から提案を頂き、きさらづのレトロ建築をテーマとしたイベントを企画している。それが実施されるかどうか、まだ未確定ではあるが、とりあえず素案となる企画書を作成してみた。

 ある日、すぐ近所に住む知り合いにその企画の話をした。なぜその話をしたかといえば、知り合いは音楽をやっているので何か協力してくれないか、という打診をした。例えば、イベントのバックグラウンドになるオリジナル曲とか。

けっして懐古趣味ではない

 そのとき知り合いは次のようなことを言っていた。「昔の写真はないの、懐かしい街並みとか…」、当方が説明のなかでレトロ建築と言ったことで、懐古趣味と勘違いされたようだった。懐古とは、古きを懐かしく思うことだ。

 当方の企画の趣旨はまったく違うところにある。「レトロ建築を未来に繋ぐ」、ということがメインテーマである。

 未来に繋ぐ具体的な手段、解決法は現時点では提示できないが、きさらづに残されたレトロ建築の現状を知ってもらい、残された時間の猶予は少ないですよ、というメッセージを伝えたい、という意味を含んだイベントである。

 レトロ建築は現状ままでは未来に繋いでいけない。それを残す手段を考えて、実行するのは並大抵のことではない。まずは現状認識を広めて、その波及効果で民間企業の投資や保存活動に繋いでゆく機会となればと考えました。

 なお当然ですが、一回程度のイベントで目的が達成できるとは思っていません。ただし、やる意義はあるのではないか、と考えています。何事も考えてばかりじゃ日が暮れてしまうし、やってみないと結果もでません。

<イベント企画案の概要>
・写真:きさらづのレトロ建築(現存と最近壊されたもの)
・アート:再生をテーマとした作品
・メッセージ:言葉=いまそこにある記憶を刻んだ建物たち
・キュレーションのアテンド:企画・解説、ほか
・その他:グッズの販売等(Tシャツとか)

 ところで、懐かしい古い写真の中でしか見られない街並みや建築と、現存するレトロ建築では、どちらが価値があるだろうか。

 懐かしい古い写真は、歴史の記録として貴重なものであるのは間違いない。しかし、そこにある世界はもう二度と戻ることはないものだ。そして、写真の中にそっと仕舞われた過去の記憶として残されてゆく。それはそれで価値はある。

 一方、現存するレトロ建築は、古い写真の建物よりさらに時代を刻んで残ってきている。しかも、いまそこにある建物である。古い写真が50年前なら、現存するレトロ建築は、その後の幾年月の経過もいまに残している。

 古い写真の中の建物は、過ぎ去った過去でしかないが、現存するレトロ建築には過去を積み重ねてなお、これからの未来にも残る可能性がある。

 端的に言えば、レトロ建築の価値はまさにそこ(未来に残る)にある。

レトロ建築を未来に繋ぐ方法

保存再生学特別研究会「近代文化遺産における活用の意味を考える」
 近代建築の保存において重要なことは、歴史遺産としての建築を日々普通に「活用」すること、つまり「使い続ける保存」への取り組みである。

 現在、国においても文化財保護法改正の検討が進められているが、その検討課題のなかにも「近代の文化財の保存と活用の在り方の検討」が上げられている。

 “文化財の「活用」とは「公開」と同義語である”と語られてきた時代は既に過去のものになり、建築は「活用」することによってのみ保存できるということが社会的にも理解されつつある。

 しかし一方、歴史遺産として価値の高い建築は、ただ「活用」されればいいというものではない。現代の社会の中でその価値を守りながら「活用」されることが重要なのである。

主催:京都工芸繊維大学大学院建築学専攻、京都工芸繊維大学KYOTO Design Lab

 レトロ建築は、保存ではなく活用しながら継続してゆくことが大事なようである。修繕、維持管理は常に付きまとうし、その予算確保には収益が出せる内容が必要のようである。民間企業が、現状を保全しつつコンバージョン(用途変更)で再生してくれれば理想であるが、そう簡単にはいきそうもない。

レトロ建築再生の事例

手打ちそば百丈
埼玉県川越市元町1-1-15

<事例>
看板建築の再生活用、民間建築物、昭和初期の建築
 川越伝統的建造物群保存地区の北東の端に位置する建物である。看板建築と呼ばれる建物の中でも壁面の形態・保存状態が申し分ない上、内部は改装され店舗として十二分に活用されている。

<建物の使われ方>
・内装を一新し、1・2階は店舗、3階は、工芸・版画・建築・絵画などの展示スペースとして活用している。

<年間利用者>
・地元の人、観光客、毎日多くの客が来店する。

<保存・再生活用に至る経緯>
 看板建築と呼ばれる建築の中でも、移築保存された一軒を除くと最も見事だと言われているため、街の人々は何とかして残したいと思っていた。川越で生まれ育った現オーナーがそれに応えた形で今に残る。

引用:里地ネットワーク 建築再生事例集
http://www.mizumidori.jp/minka/088.htm

冒頭写真:金沢美容室(最近取り壊された)
撮影:cragycloud

東京レスタウロ 歴史を活かす建築再生
 古くて新しい! 魅力の東京 再生建築探訪、建築・まちづくりの専門家で、イタリア世界遺産も手がけた修復家が、”古さと新しさが共存する”東京のお洒落なレトロスポット50箇所を紹介。

 かつて、レトロブームが一世を風靡した頃、街には「造り物」の古さがあふれました。しかし、その影で、「本物の歴史」を持った価値のある建物がいくつも消えていきました。

「レスタウロ」とはイタリア語で「歴史的な価値を損なわずに再生する」こと。
東京には、レスタウロで蘇った建築空間の事例は多数あり、いずれも、「新旧対比」不思議な魅力を醸し出す、癒しのスポットとなっています。

第1章 大胆にコンバージョン
第2章 身近な建物を蘇らせる
第3章 和の伝統を守り・活かす
第4章 歴史的意匠を継承する
第5章 テクノロジーで美を支える

東京レスタウロ 歴史を活かす建築再生 (ソフトバンク新書)

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